東京の水源と緑地を担わされている県の林業は全国の中でも特殊で、水源機能に対する要求が高い

以前に取り上げた静岡県と比較しながら、神奈川県の林業を取り上げてみます。
また、神奈川県が独自に進める林業・森林施策についても取り上げてみます。

※こちらの画像はImageFXより生成

今回比較する静岡県の林業事情についてはこちら↓

スズキ王国のもう一つの財産！林業を救え！

神奈川県の森林面積と林業データ

出典：神奈川県「森林面積と森林資源」 pref.kanagawa.jp/documents/33601/summary_3_2024_20250423_3.pdf

全国との比較では、神奈川県は林業に関わる指標は全てランキング下位です。
このランキングからは、神奈川県は林業後進県と判断できそうです。

静岡県と比較

出典元のデータを抽出した比較表です。

出典元データ：農林水産省「都道府県の姿　グラフと統計でみる農林水産業」
┗ 神奈川県 machimura.maff.go.jp/machi/contents/14/details.html
┗ 静岡県 machimura.maff.go.jp/machi/contents/22/details.html

更に上記比較表を基にして、
静岡県を100とした相対指数で比較をしてみます。 上記4つの評価軸を設けて比較すると・・・ 神奈川県の林業は静岡県を100とした場合、総合指数は13にとどまります。
特に林業産出額の低さが全体評価を大きく押し下げており、「森林は存在するが産業として成立していない」構造が数値として表れています。

神奈川県が模索する独自の林業像

前章で見た通り、神奈川県の林業は静岡県と比べると、
産業規模・担い手・加工力のすべてで大きく劣後しています。

次の点で静岡県と決定的に異なります。 この条件下では、
❌大規模皆伐
❌長距離木材流通
❌集約的大型林業
は成立しにくく、静岡県が展開する「産業林業モデル」をそのまま移植することは非現実的です。

都市近郊林業という特性

もっとも、神奈川県の林業は単純に「産業林業モデル」を目指すものではありません。
都市近郊型という立地特性、
更に言えば、
「東京の水源と緑地を担わされている県」という、極めて公共性の高い特殊な宿命を背負っているが故、
森林保全・防災・水源涵養を重視した政策が中心となっています。

出典：神奈川県「森林・林業のすがた」 pref.kanagawa.jp/documents/113910/05.pdf

神奈川県独自の林業取り組み

生産量では太刀打ちできませんが、神奈川県には他県が羨むような独自の仕組みがあります。

水源の森林づくり事業

出典：神奈川県「水源の森林づくり事業について」 pref.kanagawa.jp/docs/pb5/j/kakuho-seibi/2/jigyo.html

平成9年度から水源地域の森林を多彩で活力ある森林に誘導する取り組みを進めています。これは木材生産よりも、水源涵養や土砂災害防止といった環境保全を重視した林業政策です。

水源環境保全税の導入

平成19年度から個人県民税の超過課税（水源環境保全税、年額約42億円）を導入し、「かながわ水源環境保全・再生実行5か年計画」を推進しています。現在は第4期（令和4～8年度）に入っており、これは全国でも先駆的な取り組みです。

出典：神奈川県「水源環境保全税による特別対策事業の点検結果報告書（令和5年度概要版）」 pref.kanagawa.jp/documents/119226/gaiyou.pdf

森林環境譲与税との組み合わせ

出典：神奈川県「森林環境税および森林環境譲与税について」 pref.kanagawa.jp/osirase/0506/kankyoujouyozei/index.html

令和元年度から譲与が開始された森林環境譲与税（国税）について、神奈川県では水源環境保全税と使途をすみ分け、効果的に組み合わせることで県内すべての森林の保全・再生を図っています。

かながわ森林塾による人材育成

平成21年度に開校した「かながわ森林塾」では、様々な技術レベルに応じた研修を提供しています。 私も昨年、❶と❷の受講を検討しましたが、その時の経緯は↓こちら

神奈川県で断念したモノを静岡県で

無花粉ヒノキの発見・出荷は全国初

令和3年度には全国で初めて無花粉ヒノキ「丹沢　森のミライ」を出荷しました。また無花粉スギも平成22年度から生産されています。

出典：神奈川新聞「神奈川県、無花粉ヒノキ初出荷へ　愛称「丹沢　森のミライ」に」 kanaloco.jp/news/government/article-449400.html

まとめ：神奈川で林業に就職検討されている方へ

神奈川県は、決して「やる気のない後進県」ではありません。
むしろ、東京の水源と緑地を担わされている県として、
「都市近郊型」かつ「水源守護型」という、非常に特殊で重要な役割を担っている県です。

これから神奈川で林業を目指す方がいらっしゃれば、
単なる「木こり」ではなく「水源の守り手」という意識を持つと、また違った景色が見えてくるかもしれません。

今回のタイトル、こちらから引用しました。

横浜で水源林のシンポジウムに参加

神奈川の林業は全国の中でも特殊で、水源機能に対する要求が高い

地方税を20年近く徴収してきてその成果が問われ、今後に向けた方針や取組が変わろうとしている
国の方針との兼合い、国際情勢、気候変動対策など様々な要素が絡んでいる
現場の声も聞けて良かった🙂 pic.twitter.com/wJICb2PLgz

— 橋本武🌲林業 (@forester_hashi) August 24, 2024